夫から妻へのメッセージをインタビューさせていただきました
「小さな声・小さな物語の依り代に」
大切にしたいと思っているコンセプトです。
たくさんの方に読まれる文章もとても素敵だけれど
たった一人のための文章にも関わっていけたらいいなと思っています。
そんな中、
「長年働き続けてきた母(70代)がいよいよ仕事を卒業することになったんです。
家族でお祝いをするのだけれど、その会で、父(70代)から母への”ありがとう”を伝える冊子を贈りたい。久野さんから父にインタビューしてもらうことは可能ですか?」
と娘さんからのご相談がありました。
聞けば、娘さんから見ても、お父様がお母様に心から感謝していらっしゃることは明らか。
しかしながら、そこは昭和の男。「男は黙って○○」の世代。
言葉にならない(言葉に置き換える習慣がない)ものを言葉として取り出す部分で、「きくとかく」を思い出してくださったとのことでした。
あ、ありがたい…!
というわけで、ご自宅にお邪魔してのインタビュー。約90分のインタビューを、お父様の語りとして3000字ほどの原稿にして、納品させていただきました。
その原稿に3人の娘さんからのメッセージも添えて、こんな素敵な冊子にして、お母様にプレゼントされたのだとか。
Wordで納品した原稿をレイアウトして、スケッチブックに切り貼りされたそう。
なんて素敵な世界にたった1冊の本!!!
きっとお父様にしてみれば、「いったいこの人(久野)は誰やねん…?」というところから始まるインタビューだったのだと思います。
それでも娘さんたちの勢いと温度に押し切られるように(!)お時間をくださって、お母様と出会ってからの50年余りをお聞かせいただいたことは、わたしにとっても本当に至福の時間でした。
まだそこに言葉として置かれていない想いを、言葉にしていただく瞬間。
一方で、言葉以外の佇まいや表情からもお父様からお母様への想いは感じられ、そんなこんなも含めての一瞬を切り取って、ぎゅっと形にすることはできるのだろうかという宿題をいただいたような気持ちにもなりました。
「こんなこともできますか?」というご相談も大歓迎です。
できるかどうかはわかりませんが、ご一緒に考えるところからスタートさせていただけたら、とても、とても嬉しいです。
お問合せ・お申し込みは↓からお気軽に。
キャリアストーリーインタビューセッション「モノガタル」のご案内
昨年、モニター募集をさせていただいた「キャリアストーリーインタビュー」。モニターのみなさんのフィードバックや新たな学びも活かしつつ、下記のようなサービスとしてご提供させていただくこととしました。
キャリアストーリーインタビュー「モノガタル」
<こんな方に>
・ご自身のキャリアを振り返りたい
・現在転機にいるのかもしれない
・これからのことをじっくり考えたい
・改めて自分自身を知りたい・言語化したい
そんなときはどうぞお気軽にご相談ください。
<メニューのご紹介>
キャリアストーリーインタビューを軸にしたメニューを3つご用意しました。
★ライトコース 33, 000円(税込)
1)面談① キャリアストーリーインタビュー(90分)
2)ライフポートレートのご提供
ライフポートレートとは、その方の言葉に基づいて描き出された
過去から現在を通って未来へ向かうその方だけの物語。
インタビューで語られた言葉を、丁寧に紡ぎなおし、ご提示します。
★スタンダードコース 49,500円(税込)
1)面談① キャリアストーリーインタビュー(90分)
2)ライフポートレートのご提供
ライフポートレートとは、その方の言葉に基づいて描き出された
過去から現在を通って未来へ向かうその方だけの物語。
インタビューで語られた言葉を、丁寧に紡ぎなおし、ご提示します。
3)面談② ライフポートレートのフィードバックと振り返り(60分)
面談①とライフポートレートの内容をフィードバックしつつ、
そこで描き出されたものの意味についてディスカッションします。
ご自身のあり方やこれからの方向性(ライフテーマ)・具体的な
行動計画を見出すサポートをします。
★プレミアムコース 66,000円(税込)
1)面談① キャリアストーリーインタビュー(90分)
2)ライフポートレートのご提供
ライフポートレートとは、その方の言葉に基づいて描き出された
過去から現在を通って未来へ向かうその方だけの物語。
インタビューで語られた言葉を、丁寧に紡ぎなおし、ご提示します。
3)面談② ライフポートレートのフィードバックと振り返り(60分)
面談①とライフポートレートの内容をフィードバックしつつ、
そこで描き出されたものの意味についてディスカッションします。
ご自身のあり方やこれからの方向性(ライフテーマ)・具体的な
行動計画を見出すサポートをします。
4)未来予想図レポートのご提供
面談②で語りなおされたライフテーマとそれに向かう新しいシナリオ
について、レポートをまとめご提供します。
※面談はいずれもオンライン(Zoom)でも可能です。
もしも、あなたの中に、まだ眠っていて外に出ることを待っている言葉たちがあるのなら。
それは、いつもとは違う「問い」に答えてみることで、命を吹き込まれるのかもしれません。そして、その言葉たちがあなたを支える心強い相棒になってくれるのかも。
そんな場に立ち会わせていただくことができたなら、とても嬉しいです。
お問合せ・お申し込みは↓からお気軽に。
【アーカイブ04】NPO法人リネーブル・若者セーフティネット 代表インタビュー/スタッフ座談会
(取材先のご許可をいただいた記事をアーカイブとして公開しています。記事内の情報はすべて取材時の情報となります)
※NPO法人リネーブル・若者セーフティネット 活動報告 特別編(2023年2月発行)
愛知県安城市を拠点に、少しだけつまずいている若者の自立を支える活動を展開しているNPO法人リネーブル・若者セーフティネットの代表インタビュー、スタッフインタビューと記事の制作をお手伝いさせていただきました。
こちらは冊子として印刷して配布されているとのこと。PDFの掲載の許可をいただきましたので、公開させていただきます。
<代表インタビュー>
学びと出会いを通じて 若者の「次の一歩」を応援する
<スタッフ座談会>
人とつながり、社会とつながる -リネーブルを支える人たちの声-
取材日:2022年6月
取材・文:きくとかく 久野美奈子
きくとかく へのお問い合わせはこちらから
勤続50周年記念誌の制作をさせていただきました
株式会社鶴田商会様から、勤続50周年を迎えられた社員の方の記念誌をつくりたいとご相談をいただき、インタビュー、記事制作、冊子制作をさせていただきました。
「何も話すことなんかないよ~」というお言葉から始まったインタビューでしたが、ご苦労も多かった子どもの頃のお話から現在のお仕事の話まで、本当にどの瞬間も聞き逃せない!と思う時間でした。
こうした形で勤続50周年を彩るお手伝いができたこと、とても嬉しく思っています。
【アーカイブ03】認定特定非営利活動法人 人と動物の共生センター 10周年記念ロングインタビュー
(取材先のご許可をいただいた記事をアーカイブとして公開しています。記事内の情報はすべて取材時の情報となります)
※人と動物の共生センター会報誌 ともいき通信 Vol.17掲載
人と動物が共に生活することで起こる社会課題の解決を通じて 誰もが他者を思いやることのできる社会を目指して
はじめまして。NPO法人起業支援ネットの久野と申します。人と動物の共生センター設立10周年、誠におめでとうございます。
理事長の奥田順之さんと出会ったのは、奥田さんがちょうど人と動物の共生センター設立に取り組んでいる頃でした。
それから10年以上の月日が流れ、今回、奥田さんに計6時間ほどのインタビューをする機会をいただきました。人と動物の共生センターの取り組みを通して、奥田さんが何を思い、何を目指しているのか。みなさまと分かち合う機会になれば幸いです。
◆人と動物の共生センターができるまで
「ものすごく動物好きな人のように思われたりするんですが、実はそういうわけでもないんです」と奥田さん。奥田さんが獣医を志し、そして今の事業に取り組むことになった原点は、幼いころの自分への後悔だという。
「4歳のころに、兄が拾ってきた捨て犬を自宅で飼うことになったんです。でも、散歩も“面倒だなぁ”と思いながら連れて行っていたし、その命を大切にできていなかったと思います」。その犬は奥田さんが中学生の時にフィラリアという寄生虫が原因で亡くなった。「フィラリアって薬で完全に予防できる病気なんです。でも、自分はそれをしなかった」。
こうした出来事は、当時珍しいことではなかったのかもしれない。同じような体験をしながらも、その記憶を忘れてしまう人もいるだろう。だが、奥田さんにとっては、心の奥に澱のように残り続けることになる出来事だった。「その反動でしょうか、高校生になると動物の本を読むことが増えて。今思うと“動物好きな自分”になろうと必死な時期だったんだと思います」。
失ったひとつの命への贖罪の意識。そして、いのちを大切にできなかった自分はダメな人間だという想い。それらがないまぜになりながら、「動物の予防医学を広めたい」という動機で岐阜大学の獣医学科に進学。その頃には、“将来は獣医として独立開業するのかな”と漠然と将来を思えがいていたという。
そんな奥田さんの転機になったのは、大学での臨床実習が始まった頃のことだった。「やっぱり獣医学科って、心の底から動物が好きな人が多いんですよ。実習がはじまると、そういう仲間たちとの温度差が見えてきて。あれ、僕ってここまで動物好きじゃないかもって」。そんなときに蘇ってきたのが、幼いころの記憶。飼っていた犬すら大切にできなかった自分が、獣医師として出会った動物を本当に大切にできるのか。そんな自分が動物病院で獣医として働いていいのだろうか。だとしたら、自分にはどんな貢献ができるのか。悶々とする日々が始まった。
そんな中で、奥田さんは動物の「殺処分問題」に出会う。当時、年間35万頭以上の犬猫が殺処分されていた。その多くが、飼い主による飼育放棄や、飼育放棄された動物が繁殖したことによるものだった。
「この問題を気にかけている人は多くいました。でも、獣医師としてこの問題をライフワークにしている人はいないんじゃないかと。社会的に問題であることはみんな気づいているけれど、手が回っていない分野だと思いました。だったら自分がそういう部分を担いたいと考えたんです」。
大学内でドリームボックスという学生団体を立ち上げ、殺処分問題の啓発ポスターをつくって近くの駅や施設に貼ったり、子供向けに動物愛護の出前授業を行ったりと精力的に活動。そうした活動をきっかけに出会った人から、動物のシェルター(保護収容する施設)の共同運営の話をもちかけられ、卒業後は起業するつもりでいたという。
「結局、その話は頓挫してしまって、卒業後は無職の状態でした。その後、友人の紹介で、社会的な合意形成支援の会社に一時的に就職しました。それもとてもやりがいのある仕事だったし、自分に向いているとも思いました。それだけに、改めて、仕事として動物に関わることをすべきかどうか悩んだ時期でもありました」。
たくさんの本を読みあさり、自分自身と向き合う日々が続いた。そんな中で見えてきたひとつの答え。それは、「自分が何をやりたいか」ではなく、「社会の中で自分自身が一番貢献できる部分はどこか」ということだった。「それはやっぱり動物領域だと思いました。殺処分問題に出会っていて、獣医の資格があって、この分野のネットワークがある。ならば、一歩踏み出してみようと決めました」。
そこから先は早かった。いくつかの起業支援プログラムにエントリーして同時並行で進めながら、地域の中では様々な関係者への協力を呼び掛け、対話を重ねた。
「この時期にたくさんの支援をいただきながら、殺処分問題が生じる背景やプロセスを構造化して、そのための打ち手を探すことができたのは大きかったと思います。また、全部を自分ひとりでやるのではなくて、地域の様々な人や組織と協力しながら、相乗効果を生み出していくという考え方を学ぶことができました」。
人と動物の共生社会の実現には長い時間がかかるが、だからこそ持続可能な事業体としてこの問題に取り組みたい。そんな思いを胸に、まずは第一歩として飼い主と犬が一緒に学ぶスクール事業からスタートすることを決定。2012年3月にNPO法人人と動物の共生センターを設立し、「犬のしつけ教室ONE Life」を4月にオープンさせた。
◆人と動物の共生センターが目指す社会とは?
人と動物の共生センターは、「人と動物が共に生活することで起こる社会的課題の解決を通じて、誰もが他者を思いやることの出来る社会創りに貢献する」という理念のもと、現在5つの分野を事業領域として取り組みを進めている。
- 適正飼育の普及啓発
- 高齢者とペットの共生(ペット後見)
- ペット産業のCSR推進
- ペット防災の推進
- 野外で繁殖する犬猫対策
そこで目指すのは、ペットを飼っている人、ペットを飼っていない人、そして動物の三者がそれぞれにその権利が守られ、幸せを感じることのできる社会だ。
「共生社会とは、動物の愛護だけで達成できるものではないと考えています」と奥田さんは語る。現在この社会は人間を中心に構成されており、人間の感情や意思を無視して、動物を守ることだけを考えることは現実的ではないからだ。
そんな中でも、社会のペットに対する考え方は少しずつ変容してきた。動物愛護管理法(動物の愛護及び管理に関する法律)でも、2012年には動物取扱業者(犬猫等販売業者)の適正化、災害対応、終生飼養に係る努力義務等が盛り込まれ、2019年には動物虐待に対する罰則の引き上げや、飼育が困難にならないよう繁殖防止措置の実施も規定。2021年には動物取扱業を対象としたいわゆる数値規制も施行された。
こうした法整備や社会的な機運の高まりも背景にしながら、2015年前後より各地方自治体では、殺処分ゼロも達成されはじめている。家庭への譲渡が増加したことがその要因のひとつだが、高齢の犬猫や攻撃行動を示す犬猫など、家庭への譲渡が難しい個体もあり、その飼育は保護ボランティアや保護団体が引き受けており、限界があるのも事実だ。
そこで2017年に人と動物の共生センターが提示した「余剰犬猫問題蛇口モデル図」では、更に課題が生み出される構造に着目をしたことで注目を集めた。
人と動物の共生センターでは上段の蛇口(ペット産業、飼い主、野外繁殖)への対策が必要と考えているが、目の前の犬猫を保護する活動に比べると、どうしても見えにくく、わかりづらい領域でもあり、取り組む人や組織も、取り組みのための資金などの資源も限られているのが現状だ。
一方で、現在の状況に課題を感じている人は多いとも奥田さんは言う。「この10年間で当団体にも、個人の方や組織・企業などから、様々なヒアリングや相談が寄せられています。多くの方が人と動物の共生社会を創りたい、殺処分問題を解決したいという思いを持ち、新しい取り組みを模索しています。最近は、動物に関係のない企業や、人間の福祉系など他分野のNPO等、防災関連の組織などからの相談も多く寄せられています。相談の中で感じるのは、殺処分ゼロがゴールではないという事です。多頭飼育崩壊にしても、高齢者とペットの共生にしても、ペット防災にしても、殺処分がゼロだから解決する問題ではありません。皆さんが目指す殺処分ゼロの一歩先の社会は、人と動物が共に暮らす上で起こる様々な課題について、適切な解決策が提示されている社会ではないかと思います。我々は、皆さんが持っている『動物たちのために、人と動物の共生の社会づくりのために何かしたい』という気持ち対して、なんらかの実践的・具体的な提案をすることが役割であると考えています。具体的な仕組みや活動をデザインすること、それぞれの活動者・実践者が学んだりつながりをつくったりする場をつくること、具体的に活用できるツールを開発し広げていくことなどが、求められていると感じています」。
更に奥田さんは「ペットを飼っている人にとって、ペットが家族の一員であるという認識はずいぶん高まってきました。ペットのあり方について考え、心を痛めている人も多い。ただ、動物が社会の一員として当たり前の存在になっているかといえば、まだまだだと思うのです」。「災害時に動物連れで避難できる避難所やペットを飼っていた高齢者の方が入院されるときの対応など、一定の受け皿は生まれつつあります。でも、現実は高齢者施設の職員の方の中で動物好きな方が個人的に頑張ってくださってなんとかしているというケースも多いのです。しくみとして社会に実装されていると言えるようになるには、個人の頑張りを越えたしくみづくりが必要だと思います」と語る。
ペットも宿泊ができる施設やペット向けの住宅など、ペットやその飼い主に提供される商品やサービスも増加している。しかし、まだそれが付加価値になる時点で動物が特別視されているのではないか。「特別な存在」である動物を社会が「受け入れる」ことを目指すのではなく、人も動物もともに社会の担い手としてそれぞれの役割を果たしている未来は、誰かが特別に頑張ったり負担を背負い込んだりするのではなく、もっとゆるやかでありふれたものとして、人と動物がともにある状態であると奥田さんは考えている。福祉や防災といった日々の人の営みのなかに、ペットの存在が当たり前に編み込まれているような、そんな社会を人と動物の共生センターは目指しているのだ。
◆2022年春、人と動物の共生大学設立へ
そのためにも、人と動物の共生についての関心を持つ人をさらに幅広く増やしていくことが必要だ。それは人と動物の共生社会を支える担い手でもある。
一人ひとりが持つ「人と動物の共生のために何かしたい」という想いを応援することが必要だと考え、人と動物の共生センターでは、2022年春から「人と動物の共生大学」を本格的に展開していくこととなった。
「実はこの分野は、他の社会課題に比べて関心を持っている方の裾野がとても広いと感じます。自分もなにか貢献したいと漠然と思っている方も多い。そういった潜在的な想いを持っている方々が、やってみたいこと・できることにチャレンジする一歩を踏み出す、そんな働きかけができればと考えていました」。
折しもコロナ禍の中で動画配信による情報発信や、オンラインで全国から参加者を募っての学びや議論の場づくりの基盤も整ってきた。その基盤を活かせば、学びとつながりの場を作り、「人と動物の共生のための第一歩を実践する場」を継続的に展開することが可能だと考えたのだ。
「中にはすでに動物に関わる職業をされていて、様々な経験やスキルを持っているのに、自分にはなにもできないとおっしゃる方もいます。確かに動物についての専門的な知識やスキルと、地域の中で小さなプロジェクトを生み出して回していくのは違うノウハウが必要です。でも、誰にでも必ずできることがある。自分はなにをしたいのかを改めて考えたり、仲間をつくったり、学びや対話を重ねて一つ一つ形にしていく、そんなチャレンジを応援したいと考えています」。
獣医師・動物看護師やトリマー・トレーナーなどの動物のプロから、動物のNPO活動に参加するボランティア、企業や行政の役職員、大学関係者、学生、一般飼い主まで、誰もが分け隔てなく共に学び、ネットワークを築くことで、知識や情報とともに新しい出会いやつながりが得られ、自分一人ではできないことでも具体的な取り組みとしてチャレンジが生まれるという。参加のハードルを下げるために参加費は無料だ。
人と動物の共生社会においては、ペットを飼っている人も飼っていない人も、動物が好きな人もそうでない人も、すべての人が「当事者」になる。小さくともたくさんの担い手が生まれ、その活動が地域や社会の中で展開されていくことで、今まで関心がなかった人にも情報が届くようになり、考えるきっかけを提供できるようになる。
「どんな人にもどんな団体にも、それぞれ大切にしたい価値観や考えがあって、それが違うのは当たり前です。でも、その違いに分断されてしまっていたら何も始まらない。それぞれの違いを前提として、対話や学びでつながり、越えていけるような実践の場になったらいいと思います」と奥田さん。
「人と動物の共生」というテーマにおいて、学ぶべきことは尽きることがない。「単に動物や飼い主をターゲットにしたビジネスや商品・サービスを世の中に増やすということなら、ある意味簡単にできると思います。でもその結果、不適切な飼育が増えたら意味がありません。可愛がっているつもりでも、動物の生態に反した関わり方をしてしまい、動物にとっては虐待にあたることもあります。動物が好きということと動物を理解しているということは、必ずしも一致しません」。「現代社会において、人間が動物より強く、ある種の権力を持っているのは事実。そうした力関係がある以上、言葉を持たない動物を理解しようとするのは権力を持っている人間の側の務めだと思いますし、弱い立場の相手を意図する・しないに関わらず結果的に抑圧する行為は素敵ではない。動物の生態や習性、動物の心や動物が発するメッセージを理解した上で物事を考えられる人を増やすことが大事だし、自分自身もまだまだ学び続けていかなければならないと思っています。こうした取り組みを続けていくことで、共生社会に向けての社会全体の感度が高くなり、新しい文化の土台が生まれていくのではないでしょうか」。
現在、この運営経費を賄うため、ふるさと納税を活用した寄付募集(クラウドファンディング)も実施している(2022年1月29日まで)。
◆様々な価値観の違いを開かれた場での対話で乗り越えたい
人と動物の共生センターは、「犬のしつけ教室ONE Life」や、「ぎふ動物行動クリニック」を通してペットや飼い主を直接的にサポートする事業を展開しつつ、「ペット後見互助会とものわ」という終生飼育のしくみづくりや、ペット防災を啓発するための「ペット防災カレンダー」にも取り組んできた。また災害時の動物避難所についての取り組みはNPO法人全国動物避難所協会の活動として独立し、動物避難所を全国に広げ、またその情報を発信すべく、活動を始めている(うちトコ動物避難所マップ https://uchitoko.jp/)。
その活動は多岐に渡るが、動物や飼い主のみならず、ペット産業、特に生体販売業が果たすべき社会的責任の対応への働きかけを進めてきたのも特徴の一つだろう。
ペット産業への働きかけについては、法人内外でも賛否両論があったという。奥田さんは、ペット産業に対しても批判から入るのではなく、対話し、現状を少しでも改善するための具体的な提案を前提とした議論を重ねることが重要だと考えているが、その姿勢が「奥田さんはペット業界とつるむのか?」と言われることもある。
しかし、奥田さんの想いはぶれることないようだ。「現状の生体販売に多くの問題があるのは事実ですが、それらすべてをひとまとめにして“悪”とみなし、批判するだけではこの現状を変えることはできない。人間と動物の出会いをコーディネートするという業を一旦認めた上で、そこにどのような問題がありどう変えたらいいのか、こちらも共に考え、改善のための具体的な提案をしていくことが大切だと考えています」。
2021年にはペットショップチェーンを展開する株式会社AHBが動物福祉向上のためのアドバイザリーボードに参画している。このアドバイザリーボード設置は、ペット業界が適正に社会とコミュニケーションを図りながら変化をするためには、各種の専門家が忌憚なく経営者に意見を伝え、ともに議論をする場が必要と考えた奥田さんが提案し、実現したものだ。社会の声をペット産業に届け、具体的な変化を共に考えていくことが、必要だと奥田さんは考えている。
人と動物の共生センターが目指すのは「人と動物が共に生活することで起こる社会的課題の解決を通じて、誰もが他者を思いやることの出来る社会」であり、すべての事業のプロセスにおいて、立場の異なる他者に対して対等に誠実に向き合うことが求められる。
「自分も含めて完璧な人間はいないし、どんな活動も事業も最初は未成熟です。でも、ダメなもの、できていないものを切り捨てていったら何も残らないし、何より多くの人が参加したいと思えるものにはならないと思うんです。誰もが学び、成長できる社会で合ってほしいと思うし、その具体的なツールや方法を生み出していくのが自分たちの役割だと感じています」。
志を同じくする人たちの連携やネットワークももちろん大切なのだが、立場や価値観や見えている世界が違う人や組織の間をつなぎ、対話を促進し、互いの言語を通訳・翻訳していくことも自身に求められている役割ではないかと感じているという。共生社会とは議論や対立がない世界ではなく、例えどのような議論や対立があったとしても、それを見える場所に位置付けた上で乗り越えていける社会なのではないか。そして、その上で一歩だけでも相手の側に近づこうとする人が増えてほしいというのが奥田さんの願いだ。
「人や社会はどうあるべきかということは、ずっと考えています。人であれ、動物であれ、相手がどういう存在で何を考えているのかを知ろうとすることや、相手の幸せや尊厳とはなにかということに関心を持つこと。人間を人間たらしめる倫理観とでもいうのでしょうか。何かが行き過ぎているということに気づき、バランスをとろうとする意識や意図が必要だと思います」。
◆やりたいことよりもやるべきことを
実は奥田さんには、あれをやりたい・これをやりたいといった「やりたいこと」はそんなにないと言う。
「奥田さんは何がしたいんですか、これからどうしたいんですかって聞かれることも多いんですけど、いつも“うーん、なんだろうね?”って。自分自身がやりたいことよりも、必要なのに誰も手をつけていない部分だとか、自分以外の誰かが挑戦したいことに興味があるというか。やりたいことよりも、どうしたら必要なことが実現できるのだろうかということを考えることが多いです」。
やりたいことより、やるべきこと。それが奥田さんのキーワードなのかもしれない。この社会の現状を捉え、将来を展望したときに、「人と動物の共生社会」を実現するために不足してること、必要とされていることはまだまだたくさんある。10年後、20年後の社会の変化を見据えながら、現状を少しでも具体的に前に進めるためにどうしたらいいかを考え、具体的に形にすること。「それが自分にとっての“やりたいこと”なのかもしれませんね」。
人と動物の共生センターでは、2018年に法人の中長期ビジョンを策定した。
・第1フェーズ(2012~2018年)
創業期。「犬のしつけ教室ONE Life」の立ち上げ。事業基盤の構築。
・第2フェーズ(2018~2024年)
5領域(適正飼育の普及啓発/高齢者とペットの共生(ペット後見)/ペット産業のCSR推進/ペット防災の推進/野外で繁殖する犬猫対策)での活動を行い、それぞれにサービスを確立する。小さくとも社会課題を具体的に解決するためのしくみをつくる。
・第3フェーズ(2024~2030年)
それまでのネットワーク・知見・組織基盤を最大限に活用し、全国で多様なセクター(NPO、起業家、企業等)の支援を行うとともに、犬猫以外のより広い人と動物の関係の課題についての知見を拡げる。
・第4フェーズ(2030~2036年)
これまで協働してきた団体とともに、犬猫に限らない広い人と動物の課題に目を向け、各課題に対して様々な主体が協働し、判断し、実行することを通じて、人と動物の関係に関するあらゆる課題に関して、人々が自然に気づき対応している社会に向けての土壌づくりを行う。
まだ今は第2フェーズの半ば。それでも人と動物の共生センターの理念や取り組みは、多くの人の協力に支えられ、そこに集った人々の力や想いが新しいチャレンジを生み出すという循環を生み出し始めている。
奥田さんには、これまでの出会いの中で、自らを律するときに思い出す人物が何人かいるという。学生時代に出会った先生からは、実学とともに人間学や倫理学の大切さを、起業するときにエントリーした起業支援のプログラムからは理念の大切さや“At your side.”の精神を学んできた。そして、新しいことを始めようとするとき、乗り越えなければならない状況に直面したとき、これまで出会い、影響を受けた人たちから「本当にそれでいいのか」「手を抜いていないのか」と問われるような気持ちになるそうだ。
奥田さんは専門家として、同時に起業家・経営者として、これまでもたくさんの判断や決断を重ねてきた。そして、それはこれからも続いていくだろう。時には間違えることも、うまくいかないこともきっと訪れるに違いない。それでも「命」に関わる営みを業にとして選んだ以上、奥田さんが「手を抜く」ことは決してない。
これまでの10年を超えた次の10年へ。人と動物が共に生活することで起こる社会的課題の解決を通じて、誰もが他者を思いやることの出来る社会に向けて、より多くの人と手を携えながらの奥田さんの歩みはこれからも続く。
取材日:2021年10月
取材・文:きくとかく 久野美奈子
きくとかく へのお問い合わせはこちらから
【アーカイブ02】女性の学びを多様な仕掛けで支える・かわのゆみこさん
(取材先のご許可をいただいた記事をアーカイブとして公開しています。記事内の情報はすべて取材時の情報となります)
女性の学びを多様な仕掛けで支える・かわのゆみこさん
かわのゆみこさんは、2021年6月、20年にわたり代表理事を務めてきたNPO法人あっとわんの代表を降り、次世代に引き継ぎました。
あっとわんは、愛知県春日井市にある子育て支援、障害児支援(療育、相談支援)を通して、まちづくりや自立する市民の場づくりに取り組むNPO。春日井市の子育て家庭を支える存在として、市民からも行政からも厚い信頼を寄せられています。かわのさんは、NPO法人の黎明期にあっとわんを立ち上げ、その後20年以上その活動に取り組んできました。
かわのさんは、現在、あっとわんの理事を務めつつ、夫と二人で開いた古民家カフェの経営や、子育て世代の女性を中心とした人材育成事業など、精力的に活動をしています。「でも、いつも、やっていることがわかりにくいって言われるんですよね」とかわのさん。かわのさんが現在やっていること、そして目指しているものをお聞きしました。
◆古民家カフェは「やりたいこと」というよりも「やると決めたこと」へのチャレンジ
かわのさんは現在、毎週金曜日~月曜日は古民家カフェ多鞠庵(たまりあん)の運営、それ以外は様々な講座、セミナー、勉強会の企画や講師として活躍しています。
2020年7月、コロナ禍の中、ゆるりとオープンした多鞠庵は、ランチとスイーツを中心にした古民家カフェ。客層は地元の方を中心にしながらも、遠くからわざわざかわのさんに会うために訪れる方もいらっしゃるそう。企業で長く商品開発に携わっていた夫の早期退職がきっかけで、二人でなにかできないかを考えた結果、始めたのだと言います。
8年ほど前から、あっとわんの次世代継承を考え始めたかわのさん。代表を次世代に譲った後は、個人で女性の新たな学びの場をつくりたいと考えていました。その準備として3年ほど前に名古屋市内で、女性たちが気軽に学ぶことのできるサロン的な場を構えようとしていた矢先に夫から打ち明けられたのが、早期退職をするということ、そしてセカンドライフは二人で一緒に何かをやりたいという構想でした。
「それまで二人で一緒に何かを立ち上げるなんて、考えたこともなかったのでびっくりでしたよ(笑)。そもそも夫とわたしは全くタイプが違う。でも、新しい場でなにかをやるっていうのは、新しい人に出会えるということだし、まぁ、それもありかなと思うことにしました。」
二人でいろいろとアイデアを出し合いながらたどり着いたのが、古民家カフェ。夫が和食を中心とした家庭的な料理をつくり、かわのさんがスイーツを担当しています。
「いろんな方に“料理やスイーツづくりがお好きだったんですね!”って言われるんですけど、実は全然違います(笑)。好きなことを極めて起業する方もいらっしゃるけれど、うちの場合は自分たちのできることを考えていったらこうなったという感じ。わたしも夫も、自分の好きなことにこだわりたいっていうよりも、自分たちにできることは何かを考えて、よりよくするためのシミュレーションをして、チャレンジしてみるのが好きっていうことなんでしょうね。夫とわたしは、性格もこだわるポイントも違うんですけど、そうやって事業を組み立てていくやり方は自然と共有していたので、よかったなと思っています」。
今後は、カフェの空き時間に、新しくなにか始めたい人や、組織や事業、地域づくりの悩みを持つ人の相談に乗れるようなしくみも考えていきたいと考えています。
「これまでも、たくさんの女性たちの相談にのってはきたんですけど…、こちらは簡単にいつでも気軽に相談してね、と伝えるんですが、相談する側からしたら、やっぱり相談って敷居が高いんだなって感じることもあるんです。カフェでだったら、本当に気軽に立ち寄ってもらって、コーヒー一杯飲んでもらう間に、ちょっとした悩みや愚痴も聞けると思って。学びの場づくりももっとしていきたい。ただ、カフェを回しながらっていうことを考えると、きちんと段取りしないといけないし、やり方も考えていかないとと思っています」。
どんなときも、きちんとシミュレーションをして、準備を重ねるということ。そして、「やりたい気持ち」にこだわりすぎず、「やると決めたことをどうしたらよりよく、より上手くやれるか」を考える。そんな“かわの流”が、このカフェ運営にも大いに活かされているようです。
◆誰かと何かをやるときに必要な「作法」を学ぶ場として
かわのさんが本格的に女性の学び場づくりをはじめたのは、2013年頃のこと。その時にはじめたソーシャルプランナー育成支援講座も2021年には17期を迎え、たくさんの女性たちが「社会のしくみや物事の捉え方」を学んできました。 かわのさんがずっと大事だと考えているのは「自ら行動を起こし、よい循環を生み出す人材が地域の中に増えていくこと」だと言います。
「それはもう、あっとわんの時代から何一つ変わっていません。あっとわんの理念は“自立する市民の場づくり”。事業としては子育て支援や療育に取り組んでいましたが、自分たちのやっていることは、まちづくりであり、人育てだと思ってきました」。
ただ一方で、そのために必要な学びを得られる場がまだまだ少ないとも感じています。わたしたちの社会は、たくさんの「制度」や「しくみ」に囲まれていますが、普通に生活しているだけでは、その枠組みは見えてきません。例えば、医療費や保育料ひとつをとってみても、改めて考えてみると、どうしてこういう形になっているのか知らない人も多くいます。
「こうした社会のしくみや物事の枠組みを知ることは、どんなことにも歴史と背景があるということを知ることにつながります。それを知らないと、目の前の出来事や誰かの対応に一喜一憂して振り回されてしまいます」。
形式的な知識ではなく、物事を俯瞰的に、そして客観的に見る目を養うことは、事業や地域活動でも必須の視点なのです。
ソーシャルプランナー®育成支援講座で学ぶ内容は、子育て支援の歴史や背景、発達障害の基礎知識、感情ではなく行動に着目する行動分析学という心理学の考え方、自分自身の強み、企画や事業構築、組織運営のための基礎知識と多岐に渡ります。
「だからわかりにくいって言われるんですけどね(笑)。でもこれらはすべて、“誰かと何かをやるためには絶対に必要な基本的なお作法”だとわたしは思っているんです」。
例えば、自分の思ったような反応が返ってこなかったとき、自分が望むような結果にならなかったとき。誰かを、あるいは何かを責めるのではなく、相手の事情や背景にも想いを馳せながら、未来に向けて自らの適切な行動を決められることが、社会によい循環を起こすのだとかわのさんは考えています。
「女性が学ぶことができる場は、ひと昔前に比べればずいぶん増えています。でも、こうした基礎の基礎を改めて学ぶ場がないし、これは一人で本や資料を読んだら理解できることでもないと思うんです。一緒に学ぶ仲間がいて、刺激し合いながら学べることが大事なんだと思います」。
◆人生になにひとつ無駄なことはない。だからこそ土台になる学びを
かわのさんがこのように考えるようになったのは、自分自身がもがきながら学び続けた経験があるから。実は、かわのさんもあっとわんを立ち上げて数年後、組織運営の困難に直面し、組織を閉じてしまおうかとまで考えたことがあると言います。
「それまでも、いろんな書籍や研修で、組織運営のことは学んでいましたし、ある程度自分たちはできているって思っていたんですよね。でも、組織の存続にかかわるような出来事が起こってしまって…。それをきっかけに、改めて法人の理念や事業を見直して、研修やワークショップを行うようになったんです。そうしたら、結構な数のスタッフが、それぞれの事業を何のためにやっているのか意識していなかったり、理解していなかったことに気づきました。今までさんざん、言ってきた、伝えてきたと思っていたんですが、それはあくまでもこちらの“つもり”だったんだと知って…本当にショックだったし、スタッフに申し訳なかったと心から思いました」。
もう一度、原点に戻り、組織を一から見直そう。そう心に決めたかわのさん。どうしてこうなってしまったのか、そしてもう二度と起こらないためにはどうしたらいいのか。そのヒントを求めて、多くの人にアドバイスを求め、また多方面の情報を集めながら考えてきたのだそうです。
「その中で、改めてNPOの運営のバイブルともいわれる故・加藤哲夫さんの本を読んだりしたのですが、改めて、自分たちは何もできていなかったと痛感させられました。できたと思っていた過去の自分が本当に恥ずかしくて」。
地域からの「あっとわんは地域になくてはならない存在だ」という声にも背中を押され、かわのさんはもう一度、一から事業と組織を見直そうと心に決めました。
「それでダメだったらもう止めようと覚悟をして。改めて、何のためにやるのかという理念や目的を見直し、組織内のしくみやコミュニケーションもすべて見直しました」。
そうすると、組織の中にいかにたくさんの曖昧さがあったか、事実を踏まえずに雰囲気でコミュニケーションをとっていたかを痛感させられたのだそうです。それを一つひとつに向き合い、何がダメなのか、どうすればいいのかを考え続け、実践し続けてきました。
大学院で「女性の自立の学び」を社会・生涯教育の視点から研究し、行動分析学という心理学の分野を本格的に学ぶことになったのも、この出来事がきっかけになったというかわのさん。
「本当にしんどい出来事でしたが、今思えば、あの出来事があったからこそ、今の自分がある。できている、わかっていると思い込んでいたあのときのまま来てしまったら、一体どうなっていたんだろうと考えると恐ろしいとすら思います。どんな経験にも無駄はないと心から思います」。
◆学びの場づくりを通じて「よい循環を生み出す人材」を生み出す
どんな出来事も、成長と進化のきっかけになる。それは、かわのさんの実体験から導き出された揺るぎない想いです。でもそのためには、土台となる考え方や学び方が必要不可欠なのです。
「いろんなことをちょっとずつ、つまみ食いするかのように、表面的な知識を得ることに留まっている人もいます。それは本当にもったいない。どんな分野も様々な流派や手法があるので、それは好みで選べばいい。でも、学ぶのならば、その本質まで学ぶことが必要だと思います」。
本当の学びは、ごくシンプルなものだとかわのさんは言います。自らの不安を誤魔化すようにあれもこれもと手を出すのではなく、学ぶのならばしっかりと、その本質や原理原則を自らの中に落とし込むことが大切なのです。
自分なりの軸を持ち、目の前の出来事に一喜一憂しない。未来に対する最善手を考えて、不確かな感情や思い込みに振り回されることなく、よりよい行動を選択する。その繰り返しが人生を豊かにし、またそんな人が増えることで地域はもっと楽しくよいものになる。
古民家カフェでの取り組みも、人材育成のための学びの場づくりや個別のコンサルティングも、そんな人を増やし、活躍することを後押しするためのもの。かわのさんの取り組みは、多岐に渡るように見えながらも、その根底に流れるものはとてもシンプル。だからこそ、多くの人を惹きつけ、これからもその背中を押し続けていくのでしょう。
取材日:2021年7月
取材・文:きくとかく 久野美奈子
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【アーカイブ01】古民家plus北名古屋「つながりの杜」~新しい物語が生まれる場所へ~
(取材先のご許可をいただいた記事をアーカイブとして公開しています。記事内の情報はすべて取材時の情報となります)
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古民家plus北名古屋「つながりの杜」~新しい物語が生まれる場所へ~
全国には約156万戸の古民家があるという(古民家びとレポート:「総務省 平成25年住宅・土地統計調査」からみる古民家の現状についてhttps://cominka.jp/sp_future_h25report/より)。中には新たな住人が見つかったり、旅館や店舗などの商業施設や観光施設として活用されているものもあるが、その多くが維持の問題にぶつかり、放置され、また解体・廃棄されていくのが現状だ。
そんな中、2021年、名古屋からほど近い北名古屋市の住宅街の一角に、古民家を改装した小さな商業施設がオープンするという。その名も「古民家plus北名古屋“つながりの杜(もり)”」。
建物のよさはそのまま活かしてリノベーションを行い、母屋を「カフェ(セミナー・ギャラリーとしても利用可能)」と「小規模な事務所または店舗」として、離れは健康や美容に関する事業所の店舗として活用していく予定であり、現在入居者を募集している。
「古民家plus北名古屋“つながりの杜(もり)”」がどんな経緯で、またどんな思いで開設されることになったのか。オーナーの兼松稔さんに伺った。
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◆なんとかこの場所を活かしたいという想い
取材に先立ち、古民家を見学させていただいた。立派な縁側から見える美しい庭。急な階段を上った屋根裏にある立派な梁(はり)。床の軋み(きしみ)も100年という年月の重みを感じさせる。
この家で生まれ育ったというオーナーの兼松さん。15年ほど前に、両親を相次いで見送り、それからというもの、この家を見るたびに、この家屋をこれからどうしたらいいのだろうかと考え続けてきたという。
「せっかく親が残してくれたもの。うまく次の時代に引き継いでいけないだろうか、活かせないだろうか、とずっと考えていたんです」。
家屋の状況を専門家に見てもらったところ、手を入れれば十分に使っていけることはわかった。誰かに貸して使ってもらおうか。ただ、貸すといってもどうやって…?
この敷地をひとつの事業所に丸ごと貸してしまう案をはじめとして、いくつもの選択肢がある中で、専門家にも相談しながら、レンタルスペースとして、複数の事業者の方々に入居してもらおう、という方向性を決めた。現在はリノベーションがはじまり、見学会なども開催しながら、入居団体の募集中である。
◆土地200年、建物100年の重みとともに
もともと兼松家は宮大工を祖先に持つという家系。さかのぼればおそらく200年ほど前、兼松さんは8代目にあたる。祖父の代以降は、農業と不動産の賃貸業を兼業してきたという。長男として、その代々の土地や建物を引き継いだ兼松さんだが、若いころは「継ぐ」ということから逃げ回っていた時期もあったという。「大学で東京に出て、そのまま東京で就職して。ただ、親はずっと戻ってこいと言っていました。最後には母親に泣かれてしまって、それで、仕方なく戻ってきたんです」。
もともと広告プロモーションの仕事を長く続けてきた兼松さん。若いころはバブル景気の真っただ中でもあり、文字通り「24時間働く」ような日々だったという。バブル以降も仕事は途切れることなく、ある意味無理な働き方をずっと続けてきた。そろそろ少し働き方を変えてもいいかな、と考え、独立自営の道へ。現在はこの古民家の敷地の一角でカイロプラクティックの施術院を開業している。
一方で、兼松さんはもう一つの顔を持つ。トライアスロンの選手なのだ。30代の頃に健康診断で生活習慣の指導を受けてから、運動の必要性を感じ、ちょうどその頃知ったトライアスロンの世界に憧れたという。「だってカッコいいじゃないですか(笑)。」
まずは、ランニング、マラソンからはじめ、その後トライアスロンを集中して学び、数多くの大会にも出場してきた。スポーツの中でもとりわけ過酷なトライアスロン。兼松さんは「大会に出てゴールをすると、これでやっと苦しい想いをしなくて済むって思うんです」と笑う。それでも続けているのは、競技そのものの面白さに加えて仲間の存在も大きいという。トライアスロンは、レースの最中も、そしてトレーニングの間も、自分自身と向き合う時間だが、それでも、励まし合い、支え合える仲間の存在はかけがえのないものなのだ。
広告プロモーションの会社で働いていた時代も、そしてトライアスロンの中でも、チームで動くことや、仲間と支えあうことをずっと大切にしてきた兼松さん。今、この古民家plusのプロジェクトにも、心からわくわくしているという。「いろんな人の力を借りて、ひとつのことを創り上げていくのが楽しい」と語る。
◆「創っていくことができる人」と一緒に
ここがどんな場所になってほしいと思いますか?と尋ねると「大人が日常のなかでちょっとゆったりできるような、ほっとして、癒されて、元気になってもらえるような。そんな場所になってくれたら本当に嬉しい」とのこと。大人とは、年齢で区切るものではなく、「大人のマインド」を持った人、だそうだ。
例えばこだわりの商品やこだわりの時間を提供する事業など、「この場所の魅力を理解して、それを活かした事業展開をしてくれる事業所に入ってもらえたらいいなと思っています」。
このレンタルスペースは、家賃をかなり安価に設定しているが、掃除やメンテナンスはそれぞれの事業所が担うという。それは、この場所を「自分たちで守り、育てていく」想いを共有したいという願いの表れでもある。完成された場所として消費するのではなく、この古民家を媒介に、様々な事業所とそこを利用する方々がゆるやかにつながるコミュニティ。それが兼松さんの描く「古民家plus北名古屋」の姿だ。
今回のプロジェクトは、本当にたくさんの偶然が重なって立ち上がったものだという。「周りには他にもたくさん同じような古い民家があります。でも、みなさん、維持するのに精一杯で、活用というところまでいかないのが現状です。その大変さは自分もよくわかる。ただ、自分にはたまたま、相談にのってくれる人が周りにたくさんいてくれて、資金的にも、タイミング的にも、こうしたプロジェクトを新規事業として立ち上げられる条件がちょうど揃った、ということだと思うんです」。
兼松さんの今までの経験、出会い、つながり。それらがすべて注ぎ込まれる場所だからこそ、新しく始まるこの場所自体も、新しい経験や、出会いやつながりが生まれる場所であってほしい。決して、堅苦しく制約のある場所にするつもりはないけれど、この場所を大切にしてくれる人、この場所に重ねられてきた歴史と時間に敬意を持ってくれる人と一緒に、この場所の新しい一歩を創っていきたい。
この場所を「受け継ぐ」ことの重さ。一度はそこから逃れようとしたこともある兼松さんだからこそ感じる、次の時代への願いなのかもしれない。
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古民家plus北名古屋「つながりの杜」の立地は、最寄り駅からも少し距離がある住宅街(※駐車場スペースはあり)。決して都会的な便利さがある場所ではない。でも、この場所には、この場所にしかないものがある。
ここには、すでにたくさんの人の想いが注ぎ込まれつつあり、積み重ねられた100年の時間の上に、新しい時が刻まれ始めている。
新しい物語が生まれる場所へ。2021年5月のオープンが楽しみだ。
取材日:2020年12月
取材・文:きくとかく 久野美奈子
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